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備忘録

 付加価値

朝日新聞夕刊(2012年3月16日付)に沼上幹氏の記事「組織の読み筋 日の丸技術「救う」ではなく勝ちに行け」は興味深い記事だった。便利氏の業界にも当てはまるような気がする。競争が存在する市場ではどの業界にも当てはまると思う。久しぶりに読み応えのある記事だった。要約すると、以下のとおり。


(1)半導体メーカのエルピーダメモリ会社更生法の適用に追い込まれたのは、円高・タイの洪水等の要因もあるが、「業界全体の過剰供給能力による製品価格の長期低迷傾向」である。


(2)儲かるかどうかは、製品に盛り込まれた技術が高度か否かで決まるのではない。自社以外に同等品を提供できる会社が何社あるかで決まる。たとえ盛り込まれる技術が高度であっても、同じくらい高度な知識を製品に盛り込める会社が世界中に何社も存在するなら、利益は手に入らない(要するに、いわゆる「エンジニアード・コモディティ」になればもうからない、ということだろう。液晶テレビもバナナも一緒、ということ。経済学の大原則?)。


(3)一生懸命に努力・工夫することで「付加価値」をつくり、利益を獲得しようとしても、「付加価値」は自分の努力ではどうにもならない、ということを人は忘れがちである。「付加」は自分の頑張りで何とかなるかもしれないが、「価値」は自分だけではどうにもならず、買い手が決めることであり供給者が決めることではないから。


(4)「付加価値」は、自分が努力した量に基づいて判断するものではなく、買い手の立場にたって自分がどれほど取り替えのきかない存在か、自分がいなくなったらどれほど周りが困るか、といった観点から考えないといけない。(DRAMの場合、エルピーダ社以外にも供給者がいた)


(5)エルピーダメモリ社は、自社の独自技術を使って利益を生める市場もあったはず(だが、経営陣は、それを見いだせなかった)。


(6)エルピーダメモリ社は悪循環に陥っていた。技術開発で先頭を切っていても、最先端の加工技術や設備投資に必要なキャッシュが不足していた。⇒技術で差別化するにはカネが必要⇒しかし、カネがない→標準品市場での競争に巻き込まれる。⇒付加価値を自分たちで確保できない⇒先端技術の設備投資に回すキャッシュが不足⇒・・・


(7)一度悪循環に陥ると、抜け出すのは容易ではない。世界を一変させるほどのブレークスルーとか、一気に勝負をかけるだけのキャッシュの大量投入が必要。


(8)小さな技術的カイゼンでは不十分であり、会社を延命させるためだけの資金援助では悪循環を克服できない。


(9)小規模金額の「逐次投入」では、支援の意味がない。(火事を消化するためには、バケツで水をかけても無意味で、ホースで一気に消火しないといけないとの同じか?)


(10)悪循環から良循環に抜けるためには、良循環に持ち込んでいく戦略シナリオと、それを回し始めるのに必要な規模の資金が必要。


(11)「日の丸技術を死守せよ」とか「日本にものづくりを残せ」というようなノスタルジーに満ちた思想で資金援助をしても、なかなか成功しないのではないか?(そういえば、家電メーカのエコポイント制度、エコカー減税など、農業以外にも補助金漬けになっている業界が増えてきている気がする。他人から援助をしてもらうのが当然と思うようになると、企業も衰退が始まるかもしれない・・・)


(12)将来に向けて本当に価値のある技術ならば、「救う」とか「残す」とかではなく、大胆に仕掛けて「勝ちに行く」という発想でなければ、血と汗と涙とカネが浪費されることになる。


(13)存続のための資金提供ではなく、「良循環を始めるための投資」という視点がなければ、逐次分散投資という愚を繰り返すだけ。


(14)キャッシュを握る人の戦略眼が問われている時代の到来?


そういえば、かつて、ホンダやソニーは、世界の人々に製品を使ってもらおうとして海外進出していた、ということを聞いたことがある。円高だから・・・という消極的な発想ではなく、わが社の製品やサービスを世界中の人々に使ってもらいたい、という気持ちで海外進出したほうがいい結果(業績)を残せるのかもしれない。